私も患者さんと同じ様に歯科治療を受けてきました。そして歯科治療を受けてきて抜歯に至ってしまった歯ももちろんあります。歯科医師の私でも非常に辛い経験があります。ただ、患者さんと状況が異なるところは私が歯科医師だということです。
私の記憶の中で初めての治療は、中学生の頃にさかのぼります。歯科検診で今まで何も無かった私が初めて“C”という虫歯の結果を頂いてきて、歯科医師であった父が何の疑いもなく歯を削り何かの修復処置を致しました。
今となっては何をどう治療したのか…という事は覚えておりません。
月日が流れて歯の色が気になってきた私は、父を含めて周りの人たちにどうすればキレイな歯になるかを相談したのを覚えています。なぜそのような事を思ったかというと幼い頃に病気を患い、その時に服用したテトラサイクリンという抗生物質の副作用によって自分の永久歯が変色してしまったからです。
相談した結果、歯の神経を抜いてセラミッククラウンを被せるという治療計画になり、何の疑いももちろんなくその治療計画を遂行しました。
その後、歯科大学生になり数年後、以前治療した歯の神経のところが再発して歯肉は腫れて痛みも増して当時通っていた大学病院に受診したのですが、ここでも良い治療は受けられず再発が頻発して苦労したのを鮮明に覚えています。
大学を卒業した私は晴れて歯科医師になったわけですが、私の歯は全くもって晴れた状態ではありませんでした。
大学を卒業間近になったころからなぜこのように治療をしてもしても歯が完治しないのか?私の何が悪いのか?治療は大学病院で受けたのになぜなのか?様々な疑問が頭一杯になりそのころは悶々とした日を送っていました。
更に追い打ちをかけるように私の顎関節から“ボキボキ”と音がし始めたまに痛みも覚え、このことが私の“顎関節症”とはどのようなモノなのか?という果てしなき旅の始まりだと覚えています。
その後、周りの先輩歯科医師などに顎関節症の事を聞き、勉学に励みましたが“これはストレスだ”とか“この原因はわからない”と答えにならないような返事ばかりでした。
30歳になったころ猛烈に様々な勉強会やセミナーに明け暮れて、稼いだお金は殆どを勉強につぎ込んでいました。
そんなある日、セミナーで「顎関節症と咬合」という私が一番知りたかったテーマを開催しており、即座に申し込んだ記憶は今も鮮明に覚えています。多分そのコースは100万くらいでしたが「顎関節症と咬合」がわかるなら安いモノだと何の躊躇いもありませんでした。
その頃の私はマジックに掛かってしまったかのようにそのセミナーに傾倒し、毎日毎日勉強に明け暮れていました。そんなある日、私の以前治療したセラミッククラウンがなんと外れてしまったのです。そんな時、このセミナーの先生の治療を受ければ完璧なのではないかとまたまた即座に思い立ち治療を受ける事を決めたのです。
しかしそれもほんのつかの間、自分が思い描いていたようにはならずセミナーも終了して、私の歯も更に重大な問題を抱えていったのです。
この先生がその当時非常に高名な方であったのでその方がだめだったらどうすれば良いのかと、非常に窮地に追い込まれておりました。でも日本でだめなら世界へと気持ちを変えて、その当時サンフランシスコで行われていた学会に参加を決めてPeter Dawsonという先生を初めて知り、この治療法なら治せるのではないかという気持ちが高鳴り数年に渡りアメリカに通いましたところ、アメリカに歯科医師の友人が出来て私の歯を治療して頂くところまでいったのです。
その当時は非常に私の歯も調子が良くなり、この方法なら私のように顎関節症で困っている患者さんを助けられるかも知れないと思い、自分が治療を出来るようになるまでさらに勉学に勤しみました。
この治療法を覚えたお陰で自分が今まで治せなかった治療が治せるようになり、非常に興奮してどんな患者さんにでもこの方法を適応したのを覚えています。
その当時は顎関節症はマウスピース治療をするというのが、治療の決まりだったように記憶しています。
しかし物事はそう単純ではありませんし、人間は機械ではありませんので全部に同じ方法を用いても全部が上手くいくわけがありません。やはり治療をした何割かの患者さんの治療が上手くいかないのです。
それから時期を同じくして自分の咬み合わせも変化してきて、よく物が咬めなくなってきたのです。
今までの治療方法にも限界があると悟った私は、更に様々な本やインターネットで探して違う方法をしている歯科医師をアメリカに見つけました。
この方法は今の私の治療法の礎になっていて、全ての治療データを集めてそこから治療法を分析するというやり方です。
今までと違っていた事は顎関節をMRI撮影して見えるようにするという事でした。これには驚きました。なぜならこのMRI撮影から顎関節の情報を読み取ってこのデータを患者さん一人一人に応用していくという方法です。
また、殆どの場合マウスピースは使いませんし、なぜ使うとダメなのかという理論もいろいろと学びましたので今ではマウスピースは使っておりません。
今まで歯科医師は“歯”や“歯肉”などの見えるところしか診ませんでした。
しかし咬むという行動を考えると顎関節を抜きにして治療は考えられないのです。
そして自分の歯ではどうなるのか?と思いアメリカ人の歯科医師に私の顎関節と咬み合わせを治療して頂きました。その後は非常に快適で、これぞ“歯科治療”と思えるところに至ったように思います。
このように歯科医師の私でも非常に辛い経験していますので、一般の患者さんなら尚更です。ですので患者さんの立場にたった歯科治療が出来るものと思っております。