患者さんは50代の女性で、宇都宮市内の医院でインプラント治療をされた患者さんです。左上6番に骨造成した骨充填剤が口から出てくるという苦しい体験をされるなど、この治療によって最終的には左上7番のみをインプラントで治療されたとのことです。予後も悪くお悩みを抱えて名取歯科医院にご来院され、約2年でインプラント再治療を終えました。
本来は複数のインプラントで固定されるべき奥歯を、骨造成の失敗からブリッジで治療していたため、残っている自分の歯に大きな負担が掛かっている状態だったため、骨造成と歯ぐきの再生とともにインプラントの再手術・埋入を経て、臼歯部のセラミック連結歯によって機能回復とともに審美歯科治療を終えました。
治療ステップ
初診時
全体的な歯ぐきの炎症とともに、他医院でのインプラント失敗も影響していると考えられますが、過蓋咬合(ディープバイト)と呼ばれる深い噛み合わせの状態でした。見た目では解りませんが、レントゲンを撮影すると上顎左上は骨が吸収され歯を支える機能を失っている状態でした。
現状と治療計画
主訴として他医院でのインプラントに端を発した、歯科治療への不安と不信感をお持ちでしたので、名取歯科医院では「何故インプラントが必要なほど奥歯の状態が悪くなったのか?」という本質的な原因に目を向け、顎関節を軸に「力」に着目した治療提案をしました。
左上6番の骨造成を失敗したことから、左上7番だけにインプラント治療がなされ、その結果、さらにお口全体のコンディションを加速度的に悪化させるという状態でした。失敗した骨造成をあらためて再生治療で復元したうえで、インプラント治療とセラミックによって奥歯の機能性とお口全体の噛み合わせを改善する治療計画をお伝えし治療がスタートしました。
精密検査
奥歯にかかる「力」に対して極めて脆弱な治療がおこなわれていました。主訴として来院された骨造成に失敗した左上6番と無理なインプラント治療をした7番だけに目が向きがちですが、お口全体で見ると左右の奥歯に等しく治療痕があることがわかります。噛み合わせに対して正しい診断がおこなわれず、お口全体にかかる「力」の作用を無視したこれまでの治療が根本原因と診断しました。
CTで確認すると主訴である左上6番周辺の骨がなくなっていることがお分かり頂けると思います。ただし注目すべきは同じように右上顎も骨吸収が進んでいる点です。骨吸収は複合的な原因の積み重ねで進行しますが、大きな要因として顎関節の疾患にともなう噛み合わせの乱れ、食いしばりにより臼歯部に大きな負担がかかっていることが解ります。
骨造成(骨の再生)手術
他医院での骨造成失敗による時間経過(治療ロス)があったことから、左上6番周囲を観察すると上顎洞底まで僅かに 1.96mm まで骨吸収が進行していました。それまでブリッジの支えとされていた5番のダメージが大きく、また充分な根幹治療がされていなかったため、5番も骨吸収の進行リスクとなっていました。患者さんの同意を得た上で抜歯し、5番6番を周囲を点でなく面として骨造成を進めます。
自家骨(上顎結節から骨と結合組織)を採取して、骨補填剤(ガイストリッヒ バイオオス)を混合して失ってしまった上顎に充填していきます。充填した自家骨と骨補填剤が自分の上顎の骨と生体的な結合するまで約3ヶ月を要するため、その間はテック(仮歯)仮歯でお過ごし頂きます。
インプラントの埋入手術
約3ヶ月後に骨造成部分の生体的安定を確認したのち、サイナスリフトを併用したインプラントの埋入手術を行いました。今回の再治療で骨造成も計画通り終えたことから左上6番と抜歯した左上5番にインプラント埋入をおこないました。これまでの治療の間、左上7番に関しては他医院で埋入したインプラントを活用しています。これは一度に複数の治療をおこなうことで、免疫系に過度の負担をかけ問題を複雑化させないためです。新しく埋入したインプラントが骨と結合するまで約4ヶ月は隙間を埋めるためのテック(仮歯)でお過ごし頂きます。
インプラントの確認とプロビジョナルの印象
約4ヶ月後に5番6番のインプラントの生体的結合を CT ・レントゲンで確認し、残していた他医院で治療していた左上7番のインプラントを除去して同時に噛み合わせ調整用プロビジョナル(精密な仮歯)の印象をおこないました。
セラミックの上部構造を最終セット
噛み合わせの調整をしていた仮歯をジルコニアセラミッククラウンを連結した上部構造に置き換えました。
噛み合わせ治療と咬合調整
今回は左右の奥歯に過度の「力」が加わる噛み合わせを考慮して治療を進めました。その結果、顎位が患者さんにとって安定する(ストレスの少ない)位置にもどりました。治療開始時に取得した MR を含むデンタルドックのデータ、また噛み合わせの力をデジタルでチェックできるTスキャンを治療後も使用しながら、咬合紙も有効に使い最終的な咬合調整を進め治療を終えました。
治療費
精密検査 | ||
デンタルドック費用 | ¥54,000 | |
歯のクリーニング/PMTC | ¥10,800 | |
合計 | ¥64,800 |
骨造成(骨の再生)手術 | |||
抜歯(左上5番) | ¥22,000 | ||
仮歯 | ¥21,600 | ||
骨造成術(複雑な場合) | ¥220,000 | ||
合計 | ¥263,600 |
インプラントの埋入手術 | |||
インプラント手術 | ¥220,000 | 2 | ¥440,000 |
インプラントガイド | ¥55,000 | 1 | ¥55,000 |
合計 | ¥495,000 |
セラミックの上部構造を最終セット | |||
ジルコニアセラミック | ¥200,000 | 3 | ¥600,000 |
セラミッククラウンの連結(スクリュータイプ) | ¥88,000 | 1 | ¥88,000 | 合計 | ¥688,000 |
症例紹介について
治療費について
すべての治療が保険外診療となります。価格と税率は治療当時のものとなります。初診カウンセリング費用は無料ですが、治療前にデンタルドック(55,000円)が必要です。
治療リスクについて
治療中に一時的な咬合痛や冷温水痛、若干の歯肉の腫れ、発赤などを生じることがあります。また仮歯の時期には仮歯の脱離や破損の可能性、舌感などに違和感を感じることがありますが、本歯に移行するまでに通常消失します。
※すべて症例による違いや個人差があります。
掲載写真について
すべて名取歯科医院での臨床写真で、見た目を変える画像加工は行っておりません。またメーカーや学会誌からの転用はございません。掲載写真は実際に治療を行った患者さんの同意を得て、治療を検討する方への情報提供と啓発を目的として公開しています。
噛み合わせと定期検診について
審美治療の終了後は、必ず定期検診をお受け頂きます。これは顎関節を含む噛み合わせの安定を出来るだけ長期にわたって維持して頂くためです。噛み合わせの安定は治療箇所の長期予後(長持ちする治療)におして不可欠です。
メタルフリーとマイクロスコープについて
金属を使用しないセラミックス、ファイバー、レジンによるメタルフリーの審美修復治療です。マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使った拡大視野による治療により修復物の適合性を高めることは虫歯や歯周病の再発抑止に有効です。