患者さんは30代の男性で、右奥歯の強い痛みで噛めないと来院されました。デンタルドックによる精密検査の結果、奥歯周囲の骨がなく動揺(ぐらぐら)もあり歯原性の副鼻腔炎(蓄膿症)も認められました。通常抜歯ですが上顎骨がなく抜歯後にインプラントもできません。精密根管治療をおこない、更に一度歯を抜いて見えない部分の根の治療を外側からおこない元に戻す再植を選択しました。
治療ステップ
初診時
他医院で10年以上前に神経の除去と被せ物の治療をしたものの、2年ほど前から徐々に痛みを感じるようになったそうです。デンタルドックによるデンタルレントゲン写真からは歯の周囲骨の喪失、パノラマレントゲン写真から右側上顎洞に不透過像(歯原性の膿)が認められCT所見からも周囲骨の喪失が認められました。
精密検査・治療計画
右上7番は歯の状況や、顎骨の状況から判断すると抜歯診断が一般的です。顎骨の状態を考えると抜歯後にインプラント治療を選択することも困難と予想されました。患者さんご自身からもできるだけ自分の歯を残したいというご希望を頂きました。
そこで患者さんのリスクとメリットをお伝えしインプラント治療を第一選択とせず、前治療として精密根管治療を天然歯の保存を目的として計画しました。
ラバーダム防湿法による根管治療
マイクロスコープによる拡大視野とラバーダム防湿法により、精密根管治療を開始しました。根管内の感染源が無くなった事を確認したうえでMTAにて丁寧な根管充填を行います。既に根尖が破壊されいたため、通常のガッタパーチャとシーラーでは緊密な根管充填が出来ないと診断のうえで MTA (ProRoot MTA)を選択しました。
根管治療2ヶ月後の経過観察
MTA(ProRoot MTA)による根管充填による精密根管治療、2ヶ月後にCTで再検査したところ、歯の根の周りで失われていた骨の改善を確認する事ができませんでした。また歯周ポケットも初診時と同様に8mmから改善が見られませんでした。これによって物理的な治療ではアクセスできない場所に感染が広がってことがわかりました。
新しい治療計画
歯は破折していないことを再度確認し、副鼻腔炎(蓄膿症)の原因は根尖部の汚染除去が完全に行えなかったと仮説をたてます。天然歯を残す最後のチャレンジとしてBio Ceramicを用いた天然歯の再植治療(逆根管充填)を新たに患者さんにご提案しました。
これは顎骨に埋まった状態では物理的にアクセスできない根管と根尖部を1度、歯を抜いたうえで丁寧に消毒と処置を施し、また元どおりの場所に戻すという再植という治療法で、半世紀以上の歴史を持つものですが、高い技術が必要なこと失敗のリスクが高いことから患者さんのクレームを怖れて提案しない歯科医師が多い治療の一つです。
再植治療 (2ヶ月後)
逆根管充填を応用した再植治療をおこない再植歯の固定には縫合と隣在歯・レジンによる固定としました。今回の治療に対しては、良好な封鎖性、抗菌性、生物学的活性からBioCeramicを選択しています。
ゴールドクラウンのセット
これまでの症状が全く無くなり歯の動揺(ぐらぐら)も消失した事から、最終補綴物であるゴールドクラウンをセットしました。ただし、この時点ではまた副鼻腔(上顎洞)に多少の炎症が残っていました。
治療から5年
ゴールドクラウン(最終補綴物)のセットから5年の定期検診時では、副鼻腔炎(蓄膿症)の再発もなく、また骨の再生により歯の動揺(ぐらぐら)も無くなりしっかり噛むことが出来ています。
通常は抜歯を医師から薦められ、抜歯したあとに骨の状態が改善しなければインプラントもできない可能性があります。天然歯を残したいという強い患者さんのご希望に応える形で挑んだ、まさにチャレンジケースではありましたが、このような状態であっても的確な診断と感染除去のコントロールさえ出来れば、患者さん自身の歯を残すチャンスに繋がります。
自費の治療だから選択できるMTAの封鎖性、抗菌性、生物学的活性によって抜歯から天然歯を保存できる可能性が広がりました。5年経過時点では再植のリスクと言える外部吸収は認められませんが、引き続き定期メンテナンスで慎重な経過観察を続けていきます。
この動画からも歯の動揺(ぐらぐら)がなくなっていることがわかります。
治療費
精密根管治療(大臼歯) | ¥176,000 |
CT撮影 | ¥11,000 |
MTA根管充填 | ¥33,000 |
精密根管治療を受けた後での歯の再殖 | ¥55,000 |
ゴールドクラウン | ¥187,000 | 合計 | ¥462,000 |
症例紹介について
治療費について
すべての治療が保険外診療となります。価格と税率は治療当時のものとなります。初診カウンセリング費用は無料ですが、治療前にデンタルドック(55,000円)が必要です。
治療リスクについて
治療中に一時的な咬合痛や冷温水痛、若干の歯肉の腫れ、発赤などを生じることがあります。また仮歯の時期には仮歯の脱離や破損の可能性、舌感などに違和感を感じることがありますが、本歯に移行するまでに通常消失します。
※すべて症例による違いや個人差があります。
掲載写真について
すべて名取歯科医院での臨床写真で、見た目を変える画像加工は行っておりません。またメーカーや学会誌からの転用はございません。掲載写真は実際に治療を行った患者さんの同意を得て、治療を検討する方への情報提供と啓発を目的として公開しています。